地球の一体性原理に基づく環境活動:バハイ教の視点と実践事例
信仰に根差す環境倫理:バハイ教の場合
「信仰と地球の未来」をご覧いただき、ありがとうございます。本日は、比較的新しい世界宗教であるバハイ教が、その教えに基づいて環境問題や持続可能性にどのように取り組んでいるのかをご紹介いたします。バハイ教の中心教義の一つである「人類と地球の一体性」という視点は、現代の複雑な環境課題に取り組む上で、新たな視点や連携の可能性を示唆していると考えられます。
バハイ教の教えに見る環境への責任
バハイ教は、19世紀半ばにペルシャ(現在のイラン)でバハーウッラーによって創始された宗教です。その教えは、神の一体性、宗教の一体性、人類の一体性を核としており、全ての人間が偏見なく一つの家族として地球上に平和に共存することを目指しています。この「一体性」という原理は、単に人間社会に限らず、地球上の全ての生命、そして地球そのものとの関わりにおいても重要な意味を持ちます。
バハイ教の教えでは、神は宇宙とその中に存在する全てを創造したとされます。自然界は神の創造の証しであり、それゆえに深い敬意をもって接するべき対象であると考えられています。人間は創造物の中でも特別な地位を与えられていますが、それは支配のためではなく、他の創造物に対して責任を持ち、管理する(Stewarship)ためであると解釈されることがあります。バハーウッラーの著作には、自然の美しさを称賛し、自然を破壊することへの警告とも受け取れる記述が見られます。
特に、科学と宗教の調和を重視するバハイ教では、現代科学が明らかにした地球環境の危機的な状況を真摯に受け止め、宗教的な倫理観に基づいて行動することの重要性を強調しています。気候変動、生物多様性の損失、資源の枯渇といった問題は、まさに人類の一体性、そして地球全体の一体性が危機に瀕している証拠であると捉えられています。
一体性原理の実践としての環境活動
バハイ教徒やバハイ教のコミュニティは、この一体性の教えを基盤として、様々なレベルで環境保護や持続可能な開発に向けた活動を展開しています。
一つの例として挙げられるのが、地域コミュニティにおける草の根レベルの取り組みです。世界各地のバハイ教コミュニティでは、それぞれの地域のニーズや課題に応じて、植林活動、清掃活動、リサイクルプログラムの推進、持続可能な農業技術の導入、環境教育プログラムの実施などが行われています。これらの活動は、単に物理的な環境を改善するだけでなく、参加者が地球との一体性や共同体としての責任を学ぶ機会ともなっています。
また、バハイ教の国際機関であるバハイ国際共同体(Baháʼí International Community, BIC)は、国連などの国際的な場において、長年にわたり環境問題に関する提言活動を行っています。BICは、気候変動交渉会議(COP)のような重要な国際会議に積極的に参加し、バハイ教の教えに基づく環境倫理、特に人類の一体性に基づくグローバルな協力の必要性を訴えています。彼らの提言は、精神的な原理がどのように具体的な政策や行動に結びつくかを示す事例と言えるでしょう。BICは、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた取り組みにおいても、精神的な側面や倫理観の重要性を強調しています。
例えば、BICは、特定の環境問題報告書の中で、消費主義や貧困の根絶、そして教育の機会均等が環境問題への取り組みにおいていかに重要であるかを論じています。これは、環境問題を単なる技術的な問題としてではなく、社会構造や人間の精神的な側面とも深く関わる問題として捉えているバハイ教ならではの視点と言えます。
読者への示唆:連携と新たな視点
環境問題に関心を持つ環境系NPO職員、研究者、教育関係者の皆様にとって、バハイ教の取り組みはいくつかの示唆を与える可能性があります。
第一に、バハイ教の「人類・地球一体性」という原理は、多様な背景を持つ人々に環境問題の深刻さや相互関連性を伝える上での有力な切り口となり得ます。国境や文化を超えた一体感に基づいたメッセージは、分断が進みがちな現代において、環境問題への共感を広げる力を持つかもしれません。
第二に、地域レベル及び国際レベルでのバハイ教コミュニティとの連携可能性です。草の根活動や国際提言活動に積極的に関わるバハイ教コミュニティは、環境保護を目指す他の団体にとって、協力のパートナーとなり得ます。特に、精神的な価値観を共有しながら環境問題に取り組むという視点は、活動に深みと多様性をもたらすでしょう。
第三に、科学と宗教の調和を重視する姿勢です。環境科学の研究者や教育者にとっては、科学的な知見を宗教的な倫理観と結びつけて、より多くの人々に訴えかけるためのヒントが得られるかもしれません。
結論
バハイ教の教え、特に人類と地球の一体性という原理は、現代の環境問題に対する深い洞察と、具体的な行動への動機付けを提供しています。世界中のバハイ教徒がこの教えを実践することで展開されている様々な環境活動は、「信仰」が単なる内面的な営みにとどまらず、「地球の未来」を創造するための具体的な力となり得ることを示しています。異なる信仰を持つ人々が、それぞれの教えから環境倫理を汲み取り、連携して行動することが、持続可能な世界の実現に向けた重要な一歩となるでしょう。