信仰と地球の未来

プロテスタント教会における「創造のケア」実践:聖書の教えから生まれる多様な環境活動と海外事例

Tags: プロテスタント, 創造のケア, 環境保護, キリスト教, 海外事例, 聖書, 連携

プロテスタント教会における「創造のケア」とは

現代社会において、気候変動や生物多様性の損失といった環境問題は、人類共通の喫緊の課題となっています。これらの問題に対し、世界の様々な宗教がそれぞれの教えに基づいた応答を試みています。本記事では、プロテスタント教会がどのように環境問題に向き合っているのか、「創造のケア(Care for Creation)」という概念を中心に掘り下げていきます。

「創造のケア」とは、神によって造られた被造物、すなわち地球上のあらゆる生命や自然環境を大切に守り、慈しむという考え方です。これは単なる環境保護ではなく、信仰告白に基づいた実践であり、神への応答として、被造物全体との正しい関係を築き、維持することを目指します。多くのプロテスタント教会や宗派が、この概念を環境問題への取り組みの基盤としています。

「創造のケア」の聖書的根拠

プロテスタント神学における「創造のケア」は、聖書の様々な箇所にその根拠を見出します。

最も基本的な箇所の一つは、旧約聖書の創世記に描かれている創造の物語です。神が天地万物をお造りになり、「見よ、それは極めて良かった」(創世記1章31節)と宣言されたことは、被造物自体に本来的な価値と尊厳があることを示唆しています。また、人間に「地を従わせ、海の魚、空の鳥、地の上を這うあらゆる生き物を治めよ」(創世記1章28節)と与えられた使命は、「支配」と訳されることがありますが、現代の神学では責任ある「管理」や「世話」(stewardship)として理解されることが一般的です。これは、人間が創造世界に対する破壊的な権力を行使するのではなく、むしろ神の代理人として、創造物の保全と繁栄のために奉仕する責任を負っているという解釈です。

さらに、詩編104編のような箇所では、創造世界の壮大さと多様性が神への賛美の理由として歌われ、創造物そのものが神の栄光を現していることが示されています。新約聖書においても、パウロはコロサイの信徒への手紙で、キリストによって「万物は造られ、キリストに向かって造られ、キリストによって成り立っている」(コロサイ1章16-17節)と述べており、創造世界全体がキリストの支配と和解の対象であることが示唆されています(コロサイ1章20節)。これは、救済の範囲が人間だけでなく、被造物全体に及ぶという理解につながり、「創造のケア」の実践を救済論的な視点からも正当化します。

これらの聖書的根拠に基づき、プロテスタント教会は、地球とそこに生きるすべてのものが神からの賜物であり、そのケアは信仰生活の不可欠な一部であると教えています。

多様な実践事例:国内外の取り組み

プロテスタント教会や関連団体による「創造のケア」の実践は、地域や宗派の特性に応じて多様な形で行われています。

教会施設における取り組み: 多くの教会では、エネルギー消費の削減、節水、リサイクルの徹底、地元の持続可能な農産物の利用など、日々の運営における環境負荷低減に取り組んでいます。ドイツやオランダなどの欧州の教会では、古い教会の屋根にソーラーパネルを設置したり、効率的な暖房システムを導入したりする事例が見られます。これは単なるコスト削減だけでなく、神から与えられた資源を賢く用いるという信仰の実践と位置づけられています。

教育と意識啓発: 「創造のケア」は、信徒や地域社会への教育活動としても展開されています。主日礼拝での説教、聖書研究会、子ども向けのプログラムなどを通じて、環境問題の現状や聖書に基づいた応答の必要性が伝えられています。世界教会協議会(WCC)のようなエキュメニカル(教会一致)組織は、環境問題に関する資料や学習プログラムを開発し、世界中の加盟教会を支援しています。

具体的な環境プロジェクト: 地域社会と連携した植樹活動、河川や海岸の清掃、都市部のコミュニティガーデン運営なども行われています。アフリカの一部のプロテスタント教会では、砂漠化への対策として植林を積極的に行ったり、持続可能な農業技術の普及に取り組んだりしています。また、気候変動の影響を特に大きく受けている太平洋島嶼国の教会は、海面上昇に対する適応策や、海外の教会への支援要請といった活動を展開しています。

政策提言とアドボカシー: 「創造のケア」は、個人のライフスタイルやコミュニティレベルの活動に留まらず、より広範な社会構造への働きかけにもつながっています。多くのプロテスタント宗派や協議会は、政府や国際機関に対し、気候変動対策の強化、環境規制の厳格化、貧困と環境破壊の関連性への対応などを求める声明を発表したり、ロビー活動を行ったりしています。例えば、米国の一部のプロテスタント系団体は、化石燃料からの投資引き揚げ(ダイベストメント)を推進する運動に関与しています。

海外における先進事例と連携: 特に欧米やオーストラリアなどでは、「エコチャーチ」のような認証制度が普及しており、教会が環境基準を満たし、その実践を可視化する取り組みが進んでいます。これらの制度は、教会の環境意識を高め、具体的な行動を促す有効な手段となっています。また、宗教間の連携も重要な要素です。気候変動マーチや環境保護に関する共同声明などにおいて、プロテスタント教会はカトリック、正教会、イスラム教、ユダヤ教、仏教など、他の宗教コミュニティと共に活動する機会を増やしています。このような連携は、環境問題の解決には多様な声と協力が必要であるという認識に基づいています。例えば、環境問題に関する国際会議の場において、複数の宗教指導者が共同でメッセージを発信するといった事例も見られます。

実践における課題と展望

「創造のケア」の実践には、課題も存在します。教会や信徒の間での環境意識のばらつき、伝統的な教会の運営における制約、経済的な課題などが挙げられます。また、環境問題への取り組みが、教会本来の宣教や礼拝活動とどのように統合されるべきか、議論が続いている場合もあります。

しかし、若い世代の環境問題への関心の高まりや、気候変動による具体的な被害の拡大は、「創造のケア」の重要性を再認識させるきっかけとなっています。教会は、地域社会における信頼される存在として、環境問題に関する情報提供や啓発活動において独自の役割を果たすことができます。また、多様なバックグラウンドを持つ人々が集まる場として、環境問題に対する異なる視点を共有し、対話を通じて共通の理解を深める場となる可能性も秘めています。

結論

プロテスタント教会における「創造のケア」は、単なる倫理的な要請ではなく、聖書の教えに深く根差した信仰の実践です。創造物への責任ある管理という教えに基づき、世界中の多様な教会や団体が、施設レベルの改善から国際的なアドボカシーまで、幅広い環境活動を展開しています。特に、海外の先進的な取り組みや、他の宗教、あるいは世俗の団体との連携事例は、環境問題という複雑な課題に対して、信仰コミュニティが貢献できる多様な可能性を示しています。

環境問題に関心を持つNPO職員や研究者、教育関係者にとって、プロテスタント教会における「創造のケア」の概念とその実践事例を知ることは、多様な人々への情報伝達の新たな切り口を見つけたり、宗教コミュニティとの連携可能性を模索したりする上で、有益な示唆を与えてくれるでしょう。信仰に根差した環境活動は、地球の未来を守るための重要な一角を担っています。